2014年1月27日月曜日

映画:Sign Of The Times

吉祥寺バウスシアターで見てきました。前売り券でな!(特典バッジ付き)

<激短!あらすじジェネレーション>
プリンスの円熟期に行われた『Sign Of The Times』ツアーを映像作品化。

プリンスの最高傑作との呼び声も高い名盤『Sign Of The Times』(1987年作品。通算9枚目)。

前作『Parade』に伴うツアー終了後、バックバンドThe Revolutionを解散させたプリンスが、たった1人で作り上げたとされるアルバムです。ファンク、ロック、ポップ、ジャズ、ソウル、テクノ、ゴスペルなどさまざまジャンルのサウンドを飲みこみ、プリンス流にアウトプットした「極私的サウンドタペストリー」。どこかしらデモ音源ぽい質感が、送り手と聞き手の距離を縮める役割を果たしていて、この作品はしばしば「密室的」と評されたりもします。

この「送り手と聞き手の濃密な距離感」が、「ハマる人にはハマる」要因となっていて、僕も「プリンスの最高傑作は?」と聞かれたら迷わずこのアルバムを挙げます。

ここからは少し自分語りになりますが。

僕は中学生の時このアルバムをレンタルで借りてきて聞き、まさに雷に打たれたような衝撃を受けました。

音数を極力抑えたアレンジ、それでいて強烈なファンクネス、奇天烈なシンセ音、シャウトし、囁き、喘ぐ、変幻自在のボーカル…。中学生ですから、歌詞の意味なんかよく分からなかったのですが、「これ絶対エロいこと歌ってる!」みたいな雰囲気があったりするかと思えば、なにかとんでもなく崇高な瞬間みたいなものを(言葉ではなく)「音楽的に」感じ取ることができたりもして。表裏一体の「性」と「聖」の福音のような。なんだかこのアルバムを聞いていること自体、悪いことをしているような、背徳的な感覚。(プリンスの初期~中期のアルバムはほとんどそうですが)

…とにかくこのアルバムの凄さをいまだにうまく言語化できないんですが、言語化できないからこその良さって絶対あると思うんですよ!(開き直り)…とにかく聞いてみてください。

余談:中学時代、この興奮を共有したい!と、『Sign Of The Times』を録音したテープを親しい友達に貸したところ、「声が小さい」という感想とともに返してきたので、「分かってねえ!!!」と思いっきりディスったことがあるんですが、たしかにこのアルバム、「音圧」には乏しいです。(・・・そこがいいんじゃない!)

そんな(どんな)アルバム『Sign Of The Times』に伴うヨーロッパツアーと、プリンスの所有スタジオであるミネアポリスにある「ペイズリーパーク」で収録したライブ映像を中心に、曲間に寸劇などを挟んで編集して映像作品化したのがこの映画版『Sign Of The Times』です。日本初公開は89年ですが、今回リマスター処理を施され25年ぶりのリバイバル上映と相成ったわけです。祝。

また自分の話で恐縮ですが、高校生の時、一度だけ深夜にテレビ放映されたこの映画。初めて見たとき、アルバムを聞いて思い描いていた世界観が見事に映像化されていてびっくりした覚えがあります。この映画を見ることで、アルバムの『Sign Of The Times』の世界を補完できるというか、映画とアルバムのセットで『Sign Of The Times』だと思いますのでアルバム持っていて、映画を見ていない人がいたら今からでも見た方がいいですよ。必修。さて内容の方。

プリンス印のイミフな寸劇から、ディストーションギターが轟き1曲目「Sign Of The Times」。2曲目「Play In The Sunshine」でアッパーに客を盛り上げ、間に「Little Red Corvette」のひとくだりを挟んで超ド級ファンク「Housequake」!で序盤からエクスタシー!

この流れは過去にビデオで何度も何度も暇さえあれば見ていたので、歌詞、セリフ、コールアンドレスポンスなど完璧に頭に入っていましたが、今回初めて高画質、高音質、大音量、という環境での観賞がかない、今までとはまったく違ったフレッシュな感動を得ることができました。正直、私、この流れで落涙いたしました。は~あ~~感動~~。(細川たかし)
個人的に、この映画のクライマックスはこの冒頭4曲だといっても過言ではないんじゃないかと思ってます。

もちろん他にも見どころはたくさんあります。「I Could Never Take The Place Of Your Man」のクサいけど切ない男女のストーリー(音楽のライブで物語を紡ぐってすごいな)、「Hot Thing」でのキャット(ダンサー)との濃密なカラミ(必殺「スライディングスカート剥ぎ」!)、「Now's The Time」でのシーラ・Eの超絶ドラムソロ、プリンスの股割り(上半身が全くブレない。どんな体幹しとんだ!)、プリンスのギター、プリンスのドラム、プリンスのドヤ顔、プリンスのメガネ、プリンスのGジャン、プリンスの肩パット、プリンスの警察帽、などなど…数えればキリがありません。

『Sign Of The Times』は、1人のアーティストの絶頂の瞬間をとらえた最高の音楽映画と言って間違いないと思います。

でも、僕はこの『Sign Of The Times』というアルバムや映画を聞いたり見たりするといつも、興奮すると同時に少し寂しい気持ちにもなるのです。それはこの作品にどことなく「別れ」の雰囲気が漂っているからなのかもしれません。

このアルバムの後、プリンスは『Black Album』という「邪」や「俗」に振り切ったドス黒いファンクアルバムを作成、そのあまりの毒性に恐れをなし自らお蔵入りにしたのち、今度は「聖」に振り切った名作『Lovesexy』を発表します。プリンスの音楽的な才能という意味では『Lovesexy』とそれに伴うツアーで一旦ひと区切りがつきます(異論はたくさんあると思いますが)。

1990年前後、ニュージャックスウィングやヒップホップなどブラックミュージックのシーンにも新しい風が吹き始め、プリンスはそういったジャンルにも通じるようなよりポップでアップトゥデイトな方向に舵を切り、それと同時に初期~中期作品に必ず纏わりついていた「背徳感」が薄れていくようになるのです。

『Sign Of The Times』はそんな「初期衝動との別れ」を予兆するムードというか、「終わりの始まり」の切なさのようなものを湛えています。そしてそのことがこの映画とアルバムをより味わい深いものにしているように思うんですよね。(つってもプリンス、今も現役バリバリなんですが!)

「楽しい!」「凄い!」だけでは終わらない、多面的な魅力にあふれた不思議な作品です。
今回の仕様でのBlu-ray発売を熱望します!





0 件のコメント:

コメントを投稿